モンブランマラソン ウルトラ82km レポ10 Montenvers~ Finish 完結編 

  • 2015.08.15 Saturday
  • 15:38
完全にノックダウンした68km地点のLes Bois のエイドを約45〜50分の停止でエイドアウトし、なんとか歩き出した私。
もう走ることは完全に不能となっていた。
未だ残る吐き気とめまいをうまくセーブしながら歩みを進めるのみ。
ランナーもまばらで、前にも後ろにもあまり見えない。
時間は16時半をまわり、直射日光もやや柔らかくなった。

モンタンヴェールまでの登りはやはりアルプス独特のほとんどが岩盤の上を進む、カチカチ岩トレイル。
標高を上げて行くと右手の下にはゴールのシャモニーの町が見え、おそらく自分のホテルであろう、ホテル・モンブランの姿が見える。
早く帰りたい。
ゴールして風呂に入ってベットに倒れこみたい。
そうおもうと歩くのもままならなかったグロッキー状態からはだいぶ復活し、それなりのテンポで進むことができた。
コース中最後の大きな登りとなるモンタンヴェールへの登り、山頂には有名な氷河列車と素晴らしい氷河が広がる。

淡々とエイドまで後2kmまで進むことができたが、そのあたりでまた力が入らなくなってきた。
水はかろうじて飲めるが、もうありとあらゆる甘いものが受け付けなくなっていた。
すでに14時間以上の行動時間、内臓が機能停止しまるで運動を続けることをやめさせるかのように、エネルギー補給を拒否している。

エイドまで後1kmでまた体が動かなくなった。
ハンガーノックが再来した。

Les Boisではかろうじて口にすることができたコーラと砂糖水、オレンジ数かけらと、ポテトチップス3枚のエネルギーだけでは次のエイドまでもたないだろうということはわかっていたが、どうすることもできなかった。

視界に氷河列車の駅は見えるのだが、なかなかたどり着かない。
全身から力が抜けて行く。 ダメだ。またガス欠だ。

なんとかやっとの思いでモンタンヴェールの駅にたどり着いた。
ここには10年ぶりに来る。 10年前は観光でこの列車に乗って、氷河を見て、このエイドのあるレストランで食事をした。

今は17時を回り、最終列車も終わって、レストランは閉店し、完全に大会スタッフのみで少し寂しげな感じだった。

また手が震えだした。
ふとSTY91kmで同じようにゴール前11kmの鳴沢エイドでグロッキーになった時に、砂糖をたくさん入れた温かい紅茶が美味しかったことを思い出し、エイドスタッフに尋ねた。

「温かい紅茶に大量に砂糖を入れてもらえますか?」
「オーケー!!今作るからまってて!!」

エイドのボランティアの皆さんには感謝しても感謝しきれない。
ボロボロのボロ雑巾が、自分は何にもせずに面倒臭いオーダーを出しても満面の笑顔で対応してくれる。
これにどれほど救われたことか。 ありがとう。

エイドの横にあった椅子へたり込む。 またしばらく動けそうにない。
歩くこともできなくなっている。 残りの距離を聞くと、あと12kmだという。

この距離が、今の自分にはありえないほど長く感じ、到底辿り着ける距離に感じられなかった。
「リタイヤ」 頭をよぎる。

「ここにとまっている列車を動かして貰えば、ほんの20分程度でシャモニーにつき楽になれる。レースを続ければ下手をすればあと3〜4時間苦しむことになる」 心が揺らいだ。
「俺はよく頑張ったんじゃないか?もういいのではないか?」
今までのトレイル歴で最も弱気になったし、おそらく最も衰弱していた。

エイドにあったチョコを無理やり押し込んだら、いよいよ吐きそうになった。
このエイドにもドクターがいて、
「ダメだ、どうにもならない」 と伝えて、再び簡易ベットに横になった。

再度血圧を測り、また最悪の事態ではないことを確認。
砂糖入りの紅茶をちびちび飲み、また20分以上は停止することとなった。
「くるしい、辛い、辛すぎる」
「自分は100マイルレースは絶対無理だな」 激しく弱気になった。

「12km。。。今の自分では歩き倒せば3時間位や4時間かもしれない」
気が遠くなった。

こんなに衰弱した状態で、4時間歩けるのか?
ここで止まりすぎると日が暮れて夜になってしまう。
さっきのエイドで荷物を少しでも軽くしようと、アームウォーマー、長袖アンダーをケヴィンに渡してしまった。
まだレインウェアはかろうじてあるけれど、この体調では下手をすると低体温になるかもしれない。
いろいろ考えた。 とにかくゆっくりでも進まないと。
無理やり立ち上がると、凄まじい立ちくらみが起きた。
しばらく壁に捕まりそれをやり過ごすと、ドクターに「ありがとう」と伝えて、 再度エイドへ向かった。

ドクターは
「まだ制限時間には十二分に時間がありますよ。まだ1300人のうち200人も通過していない。安心してしっかり休んでからでも遅くはない。完走は絶対できるから、安心してしっかり準備していきなさい」
と言ってくれた。

「そうか、まだまだ後ろにはたくさんゴールを目指して頑張っている人たちがいるのか、制限時間もまだまだ9時間近くある。とにかくゴールしよう」
そう思い、エイドにある到底食べられなさそうな大きなパウンドケーキを一気に口に突っ込み、紅茶で流し込んだ。
一瞬全部吐きそうになったが、無理やり飲み込んだ。
「よし、食えたぞ!おそらくゴールまでは持つ」

外の気温は一気に下がってきていたし、風も出てきて寒気がした。
バーサライトジャケットを羽織り、モンタンヴェールのエイドをあとにした。
とにかく淡々と歩いた。

右手にはスタートからずっと走ってきたブレヴァン、コルドラテラスなどの山々が雄大にそびえていた。
太陽がスタート時最初に登ったブレヴァンの山の向こうに沈もうとしていた。
「急がなくては」 完走した気候の山で太陽が山の向こうに隠れると、気温が一気に下がることを知っていた。
体感的には7〜8度下がるだろう。

幸いモンタンヴェールから、最後の最後のドリンクエイド、シャモニーで有名なゴンドラで3800m級まで登れるアギュイ・ドゥ・ミディの中間駅「プラン・ドゥ・アギュイ」までは山の斜面を緩やかに進むかなりの緩斜面だった。

プラン・ドゥ・アギュイの山小屋が見えてくると、なんと再び走れるようになった。
「パウンドケーキのおかげだ」
4、5時間ぶりに平坦区間は走った。
一度抜かれた6名のグループに徐々に迫っていった。
太陽はいよいよブレヴァンの陰に隠れようとしている。

「急がなくては!自分は明るいうちにゴールするはずだった。絶対にもう一度ヘッドライトをつけたくない」
なぜだかわからないが、猛烈に再度ナイトランすることが嫌だった。
なぜそんなに頑なにそう思ったのか不明だがその時は
「何が何でもヘッドライトはつけない!」
と意地になっていた。

最後のドリンクエイド、ゴール前7km地点の「プラン・ド・アギュイ」のエイドはなんとスルーした!
最後の最後の底力が出たのだ。
そこでエイドストップしていた前のグループの6名を一気に抜いて、そのまま下に入った。
もうゴールまで登りは存在しない。目下に見えるシャモニーの町にはチラチラと街灯がつき始めていた。

時計は20時を回っていた。
「早くゴールしないと、息子が寝てしまう!!」

私がこのモンブランマラソンで、最もしたかったこと、それは家族とともに手をつないで一緒にシャモニーにゴールすること。
トレイルランニング、スカイランニングというスポーツで最も美しく感動的な瞬間はそれだと思う。
家族や仲間とゴールをともにできる。
なかなか他のスポーツでそれができるスポーツは無い。
そのためにゴールを目指していたと言っても過言では無い。

最後の最後のスイッチが入った。 あんなにグロッキーで終わっていたのに、私は最後の下りを爆走した。
プラン・ドゥ・アギュイのエイドから、一度も歩かなかった。
「こんなに足が残っていたのか・・・」 なんだか、嬉しいようでとても悔しかった。
内臓トラブル、ハンガーノックによってダウンしていたので、足の力はまだ残っていたのだ。

最後のエイドで抜かされたランナーが死に物狂いの形相で追撃してきた。
すぐ後ろで足音が聞こえ、つづら折れで振り返ると、みんな必死に私を追っていた。
なんという闘争心。何位であろうと、一人でも前でゴールしたいという凄まじい執念を感じる。
日本のレースではここまで終盤でこの走りを見た経験が無い。
しかし自分も負けてはいなかった。走って走って走りまくった。
絶対に止まらなかった。

この下は何度もなんども右に左につづら折れをくり返し、いくら走ってもすぐ下に見えるシャモニーの町には届か無い。
ひたすら折り返しては直線を爆走し、また折り返し、これを繰り返した。
「くっそー、早くつけー早くシャモニーに着け〜!!」
そう心で叫びながら、爆走した。

はるか前を言っていたランナーをさらに4名この下りで抜かした。
シャモニーの町がだいぶ迫ってくると、森の中に入り、めちゃくちゃ暗くなった。
しかし、徐々に暗くなってきていたので、目が慣れていてまだかろうじてヘッドライトをつけなくても走ることができた。
前を行く一人のランナーはついにライトをつけた。

「俺は絶対つけ無い!!」
今思うとなぜここまでライトをつけ無いことにこだわったのか、謎ではあるが、この時はムキになってつけなかった。

ついにトレイルの出口が現れ、シャモニーの町に入った!
不思議と足がとても軽く、まだkm5分30ぐらいで走れていた。
町は駆け抜けて行くと、それを見る全ての人たちが拍手で迎えてくれた。

「ブラボー!!セビアン!!ブラボー!!フェリシタション!!」
街全体に歓迎されているようだった。

繁華街やレストラン街に入ると、それは倍増した!
テラス席は満員で、多くのお客さんが食事をしていたが、私が走ってくるとみんな振り返って応援してくれた!

「ブラボー!!シュペール!!ブラボー!!」 鳥肌が立った。
「ああ、ついに帰ってきた。やっとやっとゴールだ!!」
大歓声を受けながらゴールを目指す。

ゴールのアーチが見えた。
「息子は、相方はどこだ??」
あたりを探す。
このためにここまで82km走ってきた。
一人でゴールするわけにはいか無い。
ゴール前にケヴィンがいた!

「サポートありがとう!息子はどこいった?」
「今来るはずだ!」 ゴール前で少し2人を待った。

相方が息子を抱っこして走ってやってきた。
「よかった・・」 これで一緒にゴールできなかったら死んでも死にきれなかった。
息子は目が真っ赤で眠そうだったが、かろうじて起きていてくれた。

「最後まで、本当にありがとう!ありがとう!」
そういって、3人並んで最後の50mを進んだ。
感動のゴール!!私のゴールはちょうど日が落ちてからだったが、同じように多くの観客に拍手で迎えられた。

「ブラボー!!ブラボー!!」 優勝選手の時のような大観衆はいなくなっていたけれど、同じように家族や仲間のゴールを待つ観客はたくさんいた。
そのみなさんが喝采で迎えてくれた。
ゴールでは左右からフォトグラフがバシバシとフラッシュをたいてゴール写真を撮ってくれた。

「やったぞ!ついにゴールだ!!」
夢にまで見たみんなでのゴール。 嬉しかった。

スカイランニングウルトラ ワールドシリーズ
「モンブランマラソンウルトラ82km」
フィニッシュタイム: 17時間49分29秒
総合順位: 174位/  1300名エントリー中
カテゴリー順位: シニア男子 95位

コース中最高順位:61km地点 85位
コース中最低順位:76km地点 186位

私の初めての世界挑戦は終わった。

自分のミスによって目標は達成できなかった悔しさは確かに感じていた。
だから、感動の涙は出なかった。
思いのほか、最後の下りとシャモニーの町を軽快に走れてしまっただけに、
「出し切った、ベストを尽くした感」は少なかったのだ。

結果としては失敗レースだった。
だけど、本当にかけがえのない経験ができた。
悔しかったけれど、本当に素晴らしい経験だった。

息子は、たぶん大きくなったら今日の記憶のほとんどは、脳の奥底に収納されてしまうだろう。
だけどきっと、どこかにその記憶が確かに刻まれて、苦しい時、辛い時に支えになって欲しいと思う。

もしそうなってくれたなら、わたしの17時間49分に渡る辛く厳しかったアルプスの戦いは全て報われる。

長い長い1日をサポートしてくれたケヴィンには本当にどんなに感謝しても感謝しきれ無い。

息子と一緒に応援してくれた相方にも、いつもいつもどうしようもないポンコツおやじだったけど、 やっぱり最後はポンコツだったけれど、明らかにいつもと見る目が変わっているのを感じていた。

「82kmのゴール、本当に感動的だよね」
いつもあらゆることに考え方が逆の私と相方だったが、今日この瞬間は気持ちがシンクロした。

「ごめんな、本当は100位以内でゴールしていいところ見せたかったよ」
「・・・充分、すごいと思うよ・・・」

私を褒めてくれることなんて、ほとんど皆無に近かったのだが、
「充分すごいと思う・・・」
この一言は、私の心に響いた。
はるばるやってきてよかった。
この瞬間、そう思った。

ゴールから20mのホテルモンブランに戻ると、ホテルのフロントや、あのイケメンのボーイも私のゴールを歓迎してくれた。

「ブラボー!82km、信じられない。私たちはただただあなたの偉業をリスペクトします」
そう言ってくれた。 泥だらけで、汗にまみれ、すっかり痩せこけたおっさんに、そんな誇らしい言葉をかけてくれた。

今朝3時半にでたホテルの部屋に帰ってきた。

「終わったんだな」
そう思った。
ずっと、ずっと目標にして頑張ってきたモンブランマラソンウルトラ。

それが終わったことを実感した。
なんだか、安堵の気持ちと、終わってしまったという、寂しさが両方共存していた。

ボロボロのゼッケンがついたウェアを脱ぎ、最強に臭くなった靴と靴下を脱いで、シャワーを浴びた。 dossard
ゴールしたゼッケンと完走メダル

「終わったんだな」 なんだか寂しかった。 もう夜22時近くなっていたので、ケヴィンを夕食に誘ったが、さすがに疲れたようで、ここでお別れとなった。

「ありがとうケヴィン。君がいなかったら絶対完走できなかった。心から感謝をいうよ」
日本の寿司キーホルダーやお菓子の詰め合わせと、お礼を渡し、ホテルの前で一緒に写真を撮ってお別れした。

それから、ゴールのすぐ横のレストランに行き、3人で遅い夕飯を食べた。
レストランはモンブランマラソン関係者でいっぱいだった。

ゴールしたばかりのランナーや、まだゴールしてこない家族をまつサポーターで賑わっていた。
ひとり、またひとりとゴールするたびに、レストラン中が歓声で沸いた。

「ブラボー!!フェリスィタション!」 中には7、8名に囲まれてゴールするランナーも。
相方が改めて言った。

「本当に、この82kmのゴールは感動的だね・・・」
その言葉が嬉しかった。

大きなピザとグラタンを食べながら、ゴールしてくるランナーを応援する。

気がつくと息子はなんだか走っているような格好をして、すやすや眠っていた。

私の2015年最大の目標であった、スカイランニングワールドシリーズ「モンブランマラソンウルトラ」は、こうして終了した。 本当に、かけがえのない、素晴らしい経験だった。
そして是非、日本のトレイルファン、スカイランニングファンの多くの方にもこの感動を味わって欲しいと思う。

長い長い、駄文に最後までお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。
これに懲りず、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。 ありがとうございました! mont blanc
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  • 2017.11.21 Tuesday
  • 15:38
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    コメント
    最高の天気のもと、完走おめでとうございます。
    ご家族でのゴールは素晴らしくとても羨ましいです。ベストなレースは難しいですが、これを経験にさらなるご活躍を期待しています(^-^)
    • チャレ
    • 2015/08/15 4:35 PM
    チャレさん ありがとうございます!あの倍の距離で、倍以上の獲得標高を完走することがどれほどの偉業か痛感しています。今はすっかり灰になっていますが、また徐々に走るモチベーションがやってくることをゆっくり待っています。これからもチャレさんの偉業達成、楽しみにしています!
    • うつぼん
    • 2015/08/15 9:18 PM
    いやぁ、感動して泣いてしまいました(笑)
    本当に完走おめでとうございます。
    自分もヘタレの身体にムチ打って、もっと大きなステージに立ってみたいと心からそう思いました。
    ご家族の応援、本当にすばらしいですね!
    ウチも相方は全く興味を示してくれないのでソロ活動ばっかしです(笑)
    ヒデキさん うちも元々は全く興味なし、というかむしろ批判的でした。でも、モンブランマラソンのような、目をつむってシャッタを切っても、絵葉書のような写真が撮れるような絶景の大自然に囲まれ、どんなランナーにも惜しみない声援を送るこの地に身をおけば、そんな相方さんもきっとこのスポーツの素晴らしさを受け入れてくれるような気がします。私もずーっとソロ活動でした(笑
    • うつぼん
    • 2015/08/16 9:34 AM
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