2018 UTMB 完走レポ

  • 2018.09.23 Sunday
  • 05:15
【UTMBレポ (超長文注意)】


【UTMBとの出会い】

初めてランニングしたあの日、3kmで筋肉痛になった。

大きな挫折を味わい、すべての目標を失っていた時、希望をくれたのは偶然ヒットしたUTMBの動画だった。


「なんてすごい世界なんだろう!出てみたい。」


漠然とそう思った。
初めて行った山は神奈川最高峰 蛭が岳往復だけで足がガクガクになった。

それでも楽しかった。もっとやってみたいと思った。
5年前あそこから始まった。

【5年目でついにUTMBへ】

5年が経ち、ついにそのスタートに立つ時が来た。
シャモニーのスタートに、UTMBのテーマが流れたとき、涙があふれた。

「ついに来たんだ。」

すさまじい大観衆の中を走り出した。

夢のようだ。でも現実だ。自分は世界最高峰の舞台を走っている。
見えないけれど、自分の前にはあのキリアンジョルネ、グザビエデヴナール、ジムワムスレーが走っている。
この動画と全く同じ道、同じ景色を走っている。

【体調悪化】

スタートは辛うじて小雨の中、あまり雨を気にせずスタート出来たが、サンジェルベのエイドからコンタミン30kmまではかなりの雨になった。

コンタミンまでは順調にすすんだ。



前半8時間経過のころ、体調が悪化した。50km Les Chapieuxのエイドでは手がしびれはじめ、吐き気がひどかった。
30分は止まらざる負えなかった。どんどん抜かれ、大きく順位も落とした。

やっとの思いでLes Chapieuxを出発するが、体は動かない。


そのあとは睡魔が来た。眠くてまっすぐ進めない。自分が蛇行しているのがわかる。でも進まなきゃ。

最も順位が落ちた時は60km地点、Col de Seigne「595位」。

夜が明け始めると、見たこともないとがった岩山と巨大な氷河が現れた。すごすぎる。

なんという景色!


80kmクールマイヨールまでの下りで急に体は軽くなった。
家族が迎えてくれたエイド。カレーメシが身に染みわたる。
エイドアウト、息子が一緒に走って送り出してくれる。

いつもエイドで一生懸命応援してくれた。

どんなに苦しくてもゴールしたい。そう思った。

そして、もう二度とないかもしれないから、世界最高峰のUTMBを走る、父の姿をしっかり見ていてほしかった。


【リタイヤの危機】

グランコルフェレ、コース中最高峰。
しかし再度体調悪化。強烈な睡魔と吐き気、気温マイナス5度、突風、命の危険を感じ始める。

食べることができない。エネルギーがない。体温が下がっていく。眠い。

「なぜこんな大会に出てしまったのか」、自問自答を繰り返す。


「もうやめよう。二度と出ない。」
「いや駄目だ。進め、進むんだ。」 
自分の中で2人の自分が葛藤し続ける。 「この峠で動けなくなったら死ぬ。とにかく超えろ。少しでも早く超えろ。」 ぶつぶつと唱えながら進む。



写真 最もキツかったコルフェレ、目の隈がすごい。

コルフェレは地獄だった。超えても恐ろしく長い下りが待っている。補給できていないから踏ん張れない。ヨレヨレで何度も転びそうになる。

走ったり歩いたり。ストックにしがみつくように下った。

走れないから、下りが終わらない。ラフーリーのエイドはまだか。


110km La Foulyには完全にゾンビになって倒れこんだ。

「もうだめだ、家族の帰国に間に合わない、一緒にゴールできない」

そう思った。


【復活】

その時、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

頭を上げるとラフーリーエイドの大きなモニターにビデオメッセージが!


シャモニーの原っぱで側転やでんぐり返しをしながらカメラに向かってきて
「パパ、頑張れ〜〜」

あまりのおもしろ動画に、吹き出してしまった。

ゾンビのような顔だったけど、笑うことができた。


このLa Foulyエイドのビデオメッセージは効いた。

絶妙な場所で配信される。このエイドは多くの選手が満身創痍だった。


「行くんだ、あきらめるな」
よろよろ立ち上がり、無理やりパンケーキを押し込んだ。

気持ち悪くて今にも吐きそうだけど、押し込んだ。

「食え、食うんだ!」


全てがまずかった。気持ち悪くて食べたくなかった。でも押し込んだ。


足も完全に崩壊していた。痛すぎて訳が分からない。 110kmラフーリーから125kmシャンペまではほとんどが下り基調の林道と舗装路。 頭の回線をぶった切った。


【リミッターカット】

「走れ、走れ!」

林道、ロードは全部走った。 どんどんペースを上げて。何としても家族がいる時間にゴールしたい。
コルフェレで相当な時間を失っていたことはわかっていた。
走れる場所はひたすら走り少しでも挽回しなくてはならなかった。


激痛の足で走り続けていると、痛みがマヒしてきた。もはや痛くない。

じゃあペースを上げよう。Champexへの登り口までは一度も歩かなかった。


120km シャンペには予想到着時間より1時間早く着いた。サポートがついたばかりで子供たちが


「もう来たよ!」とびっくりしている。

娘がバーナーでお粥をあっためてくれた。

「もっとあっためる? ぬるくない?」
すごく気を使ってくれた。

【父として】


娘が4歳の時、私は彼女の父親になった。いろんな葛藤があった。

ずっと、私はいい父親になれているのだろうか、娘は私をどう思っているのだろう。

その見えない悩みが消えたことはない。だけど、娘は一生懸命サポートしてくれた。

表情にどこか誇らしさを感じていた。
絶対にゴールしよう。娘が少しでも誇りに思ってくれるように、少しでも上位でゴールしよう。


娘はまだ一度も私と一緒にゴールしたことがなかった。

初めての海外レースのモンブランマラソンは、学校の行事で一緒に来れず、一緒にゴールできなかった。

もう高校生、これが最初で最後のチャンスかもしれなかった。

「絶対に35時間以内にゴールする」

これがタイムリミットだった。これを過ぎると飛行機に間に合わず、彼女たちはシャモニーを出発しなくてはならなかった。


【286人抜き】

シャンペのサポートで完全にスイッチが入る。

シャンペからしばらく林道になる。足は完全にマヒし、km5分ぐらいでどんどん抜かし始める。

135kmトリオンに越えるフォークラズ峠でも20人ぐらい抜かす。

CCCの時はトリオンへの下りで調子に乗りすぎて、そのあと崩れたので、この下りはセーブする。

トリオンの後の2個目の登りが鬼きつかった記憶がある。


トリオンも予測時間の1時間早く到着。息子がエイド前で

「パパー!」と待っていてくれる。

140km Trientエイドには309位で到着。
60km地点の「595位」から「286人」抜いた。

どんどん力が湧いてくる。


また娘がおかゆを用意してくれて、たっぷり食べる。
大会には申し訳ないが、大会エイドのものはもう一切食べられない。

STCのOxyshotをとり、すぐにエイドアウト。


記憶どうりの鬼登りが始まる。大瀬さん、元気なら走れるくらいの傾斜って言ってたなあ。絶対無理だなあ。ここ走れる人はトップ10の選手ぐらいだろ、、なんてぶつぶつ思いながら、丹羽さんがレクチャーしてくれたダブルポールでガシガシ上る。

ここでもどんどん抜かす。
不思議なくらい体が動いた。遥か彼方にヘッドライトの光が見えると、その選手には必ず追いつけるという理由の無い自信があった。でもそれは思い通りにできた。

視界にとらえるすべてのランナーを抜かしていった。

ここまで来ると、下りの激痛に耐えながら、必死に下るランナーばかりだった。私の足は痛みを超越して、完全にマヒしていた。

行けるところまで行こう!

激坂のTsueppe284位で通過。ヴァロルシンへのきつい林道もガンガンに走った。ヴァロルシン迄の下りは一度も歩かなかった。
153kmヴァロルシンに263位で到着。
最後のおかゆを食べる。

最後のエイドには妻だけがいた。子供たちは眠ってしまったそうだ。 おかゆを用意して待っていてくれた。

またおかゆをしっかり食べ、うどんも食べて、STC OxyshotとOver Blast、Last Kmを飲んで、素早くエイドアウトする。


「大丈夫、行ける。ゴールで待ってて。ありがとう。サポート嬉しかった。」

そう告げてエイドを出る。

2016年のCCC。ヴァロルシンで落ちた。何も食べれなくなり、そのあとペースダウン。最後のTete aux Vent で吐き、最後の最後で崩れた記憶がよみがえる。

【爆走】

今回は別人だった。ヴァロルシンからの電車沿いをだらだらと上る林道は爆走した。

もうもはや自分だけの力とは思えなかった。

みんな歩いている結構な登りも駆け上り、一瞬で抜き去っていった。力がみなぎり、無限に走れそうな感覚だった。
遥か祖先のDNAが覚醒して、山の中で獣を追いかける猟師か、獣自身になったような不思議な感覚だった。

まるで山の精霊が自分に宿ったような、未知の力だった。

ヴァロルシンからの緩いのぼりは、かなりきつい一部を除いて90%以上は走り続けた。

フレジェールへの上り口Tres le Champまでの約6kmで、ヴァロルシンの263位から236位まで「6kmで27人」を抜かした。

そしてついにフレジェールへ向けた最後の2山を迎える。

遥か上方にちらつくヘッドライトの明かりを追いかけ、一人また一人と捉えていった。Champexからの50km誰一人として抜かされることはなかった。


フレジェールからの2山の下りはエゲツなかった。体はガンガン走りたがっているのに、到底走れないコース中最大のテクニカルダウンヒルだった。

ほとんど走れなかったが、前を行くランナーにとってはさらなる困難で、この下りでも数人パスした。

【家族の待つゴールへ】

ついに丹羽さんとの試走会で見た、フレジェール最後のエイドが見えてきた。 最終エイド La Flegere163km 223位で通過。ヴァロルシンから丁度40人抜かした。

「間に合う!家族の待っているゴールに間に合う!」

嬉しさがこみあげて、苦しさなんかみじんも感じなかった。

「ここから下りで10人は抜かす」

そう勝手に決めつけ、フレジェールはコップ半分コーラを飲みほし20秒でエイドアウトした。

シャモニーへの下りを爆走した。

途中ガスっており、慎重に行かざる負えない場所もあったけれど、スカイランニングかのように、駆け下りる。
下に見えてきた明かりのランナーは全員パスした。
フロリアを抜けさらに走りやすくなった所ではさらに加速した。

そしてついにシャモニーの町へ降り立つ!
「あれ??コースが変わってる!!」
今まではずっとツアーの宿の目の前を選手は通ったけど、今回から初めてのルートになっていた。
一瞬戸惑うが、マーキング通りに進む。
シャモニーの町中に入り、川沿いの道に出る、今年から設置された歩道橋。きっとあの階段が地獄だろうと思っていたけれど、足が完全にマヒしていて、いくらでも走れるので、歩道橋も一段飛ばし全力ダッシュで一瞬で乗り越えた。


スタッフの「ウォー!不可能だろ!」の声が聞こえる。
でも何故か出来てしまった。自分の体が自分ではないような感覚、一瞬で歩道橋を超えて、いよいよ町の中心地へ。
シャモニーの中心街、石畳の直線の先に、娘と息子、そしてママが手を振っている。


「いた!!」

着いた、ついにゴールにやってきた!

UTMB 170km 獲得標高10000m 自らの足でフランスからイタリア、スイスを抜けてまたフランスへ帰ってきた!

本当は泣くはずだった。ボロボロになって、最後は必死の思いでゴールにたどり着くと思っていた。

でも、不思議な未知の力があふれて、バリバリに元気だった。あと10km全力で走れるくらいの力がみなぎっていた。 だから、笑顔だった。

息子は半分寝ぼけていて、追いついたら全力で走りだした。


「おいおい、待ってくれよ、いつものヨーイドンじゃないんだよ!みんなで一緒にゴールしよう」

最初から最後まで頑張ってサポートしてくれた子供たちとママ。息子と娘に挟まれるように手をつないだ。

娘と手をつないだのは何年ぶりだろう。
いつも遠征遠征で全然家にいない父親だった。

2か月も離れるとき、小さい頃は出発前ぎゅっと手を握ってきたことを思い出す。

もしかしたら、これが最後かもしれないな。そう思いながら娘と手をつないだ。 4人が一列に手をつないで、最後の30mをゆっくり走った。

32時間前にスタートした、Place de Triangleは人もまばらだった。時間は深夜2時40分。でもそんなことは全然気にならなかった。

32時間一緒に戦ってきた家族がそこにいるから、家族と一緒に応援してくれたJordanと、丹羽さんのサポートを終えたKevinもゴールに駆けつけてくれた。
「ありがとう!本当にありがとう!」

感謝しかなかった。
100マイルを走ると普段なかなか言えない、心の底にある素直な気持ちが出てくる。

「ありがとう」

ゴールラインの直前でみんなで止まり 「いちにーの、さんっ!」

でジャンプしてゴールをまたいだ。

ずっとずっと夢見てきた家族みんなで世界最高峰のUTMBのゴールアーチをくぐった。

「夢がかなった」

中盤までは決して予定通りにはいかなかった。でも終盤未知の体験が起きた。終盤は過去最高の走りだった。

本当に気持ちよく100マイルを走り切った。

32時間40分31秒 171? 獲得標高10000m 総合211位/2300名 年代別 V1Hカテゴリー78位。 
アジア8位
最低順位 596位 Col de Seigne 60?
最高順位 211位 Chamonix 171? (385人抜き)

ゴールアーチでみんなで写真を撮り、フィニッシャーズベストを受け取り、一緒にホテルへ帰る。
ママはすぐに荷造りをし、3時間後子供たちと一緒にジュネーブ空港へ出発した。

今までで一番苦しくて、過酷で、世界最大で、一番幸せな 32時間40分31秒だった。

「ありがとう。今までのすべての出来事に、感謝します」

#フィールズオンアース #SINANO #STC 

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  • 2018.09.30 Sunday
  • 05:15
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    コメント
    ブラボー!
    夢実現ですね。素晴らしいです。読んでいて涙が出そうになります。
    濃厚で激動な5年、こちらもドキドキハラハラ楽しく読ませて頂きました。
    うつぼんさんに少しでも追い付けるように精進します!
    • モンユリ
    • 2018/09/24 7:59 AM
    お疲れ様でした。素晴らしすぎます。
    • ma-
    • 2018/09/25 12:38 AM
    モンユリさん ありがとうございます! ついにその時が来ました。そして実現する事が出来ました。 スタートに並んだ時、このブログを書き始めた頃を思い出しました。本当に来たんだという感動、凄まじい歓声、そして家族の応援。素晴らしい時間でした。
    • うつぼん
    • 2018/09/30 9:01 PM
    maーさん ありがとうございます! あのキリアンと同じスタートに並び、家族と共に走り切れた事は最高の経験でした!
    • うつぼん
    • 2018/09/30 9:03 PM
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